型を破る:パワー モジュールの未来を形作る新しい磁性体内蔵パッケージング テクノロジー

TIのグローバル チームは、パワー モジュール向けの新しい MagPack™ パッケージング テクノロジーの開発に挑戦を続けてきました。これは、電源設計の未来をさらに前進させる画期的なテクノロジーです

24 7月 2024

経験豊富なマラソン ランナーの河野 健二は、スタートから遠く離れたゴールを目指して努力する忍耐とその価値を知っています。新しいテクノロジーの開発は、段階的に進歩し、避けられない挫折や苦心を経て成功を勝ち取るマラソンのようなものでもあります。日本を拠点としながら、革新的なブレークスルーを目指す TI の応用研究機関である Kilby Labs (キルビー・ラボ) でパワー担当のシニア マネージャを務める健二は、このような経験を何度もしてきました。

健二とTI の設計者や研究者、製造担当者が所属するグローバル チームは、電子設計のプラグ アンド プレイの構成要素であるパワー モジュールの改善のために設計されたテクノロジーに、多大な時間と労力を費やしてきました。

その成果が、パワー モジュール向けの磁性体内蔵パッケージング テクノロジーである TI 独自の MagPack です。産業用、エンタープライズ、通信のアプリケーションに取り組む設計者は、このテクノロジーを採用することで、従来は不可能だったレベルの性能を達成できます。

「このテクノロジーは、電力密度の向上、効率の向上、システム コストの削減に貢献します」と、健二は語ります。

 

さらなる効率化へのニーズ

パワー モジュールは、最新のテクノロジーのさまざまな場面で使用されています。パワー モジュールは複数の電子部品を単一のパッケージに封止することで、設計者が設計フローに費やしていた多くの時間を節減するのに役立ちます。一方で、世界の電力消費量が増加し、アプリケーションの小型化がますます進んでいるなか、デジタル ペンのような小型デバイスにパワー モジュールを組み込めるように、パワー モジュールのサイズの小型化や効率の向上が常に求められています。

ドイツを拠点とするAnton Winkler は、TI のシステム エンジニア兼モジュール テクノロジー担当者で、パワー モジュールの性能を向上させる方法に取り組んでいます。この分野での彼の取り組みが、最終的に健二との長期的な協力関係につながりました。

「健二も私たちと同様に、この業務に取り組んできたことを知りました」と、Anton は語ります。「そこで、複数のチームにまたがるテクノロジー開発として取り組みました」

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シンプルな設計原理、難しい実装

電源設計ではサイズが重要です。設計者は、より小さなスペースでより多くの電力を供給することが求められています。複数の部品をより緊密に封止し、短絡することなく異なる電圧に対応する必要がある場合には、これが課題となります。

「適切な量のエネルギーを負荷に流す必要があります。そうでなければ、負荷が正しく機能しないか、壊れてしまいます」と、Anton は語ります。

パワー モジュールには通常、基板に取り付けられた半導体と、磁界内にエネルギーを蓄え、電気の流れをスムーズにする別個のインダクタが含まれています。インダクタは効率のボトルネックになる可能性があり、多くの基板スペースを占有します。設計者にとって、適切なインダクタの選択は、時間のかかるプロセスになる場合もあります。

このジレンマを認識したチームは、体積を節約し電力密度を高めるために、インダクタを IC と組み合わせました。設計原理はシンプルでしたが、これを機能させるのは難しい課題でした。チームは仕様に合わせてインダクタを最適化するために、ニューラル ネットワーク ベースのアプローチを使用しました。また、3D パッケージ モールド プロセスを活用し、MagPack パッケージの高さ、幅、奥行きを最大限に活用することができました。これには、TI 独自の新設計材料を使用した、最適化されたパワー インダクタが含まれます。

「機械的、電気的、化学的なプロセスが関係していました。本当に複数の分野にまたがる取り組みでした」と、Anton は語ります。

新しいパワー モジュールは、サイズや性能のオプションを提示します。これにより、エンジニアは電源ソリューションのサイズを半分に削減し、電力密度を 2 倍に高めることができます。たとえば、光モジュールの設計者は、MagPack テクノロジーを採用したパワー モジュールを使用し、電力密度を 2 倍に高めると同時に、既存のフォーム ファクタを維持することができます。大量の電力を消費するデータ センターのようなアプリケーションにとっては、この特長は特に重要です。

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このテクノロジーは、システム損失の最小化、モジュールの温度上昇幅の低減、放射型電磁波(EMI)の低減にも役立ちます。このテクノロジーを開発するためのTIの取り組みとコラボレーションにより、最終的には、設計者が電源設計に費やす期間を 45% も節減できるようになります。

 

現状への挑戦

プロトタイプの準備が整い、次の課題は産業用スケールでこれらのパワー モジュールを製造することでした。TI のパッケージング チームは、製造プロセスの定義、原材料の調達、部品を製造するための新しいツールの準備を主導しました。これらの取り組みは刺激的であったと同時に、「多大なプレッシャー」でもあったと、製造業務を主導した TI フィリピン拠点のパッケージング マネージャである John Carlo Molina は語ります。

「私たちは、基礎から物事を作り上げ、現状に挑戦するとともに、新しいパッケージ構成を導入していました」と、John Carlo は語ります。「しかし成功は独創性だけでは測れないことは分かっていました。初日から私たちは、大量生産に対応できるプロセスを使用し、高信頼性で高品質の製品を開発することに重点を置いてきました。テスト用に最初のサンプルを出荷できたときは、安堵感を得られたのと同時に、次の段階への大きなモチベーションにもなりました」

このテクノロジーは新しく開発されたものではありますが、開発者たちは、メディカル モニタと診断装置、計測装置、航空宇宙と防衛、データ センターなど、大小さまざまなアプリケーションでの対応を想定しています。

「私の個人的な目標は、TI が対応できる市場を継続的に拡大することです。最終的には、車載認証取得済みテクノロジーになるうえで必要な業界規格に適合することです」と、Anton は語ります。

さまざまな市場やアプリケーションで電力需要が指数関数的に増加しているなか、新しい MagPack 磁性体内蔵パッケージング テクノロジーは電源設計の未来を再構築するのに役立ち、エンジニアがこれまで以上に小さなスペースでより多くの電力を供給するのに役立ちます。