半導体の技術革新がエッジ AI を未来へ導く

プロセッサとソフトウェアの革新により、エッジ AI はよりシンプルで身近になり、幅広い実装に貢献

05 10月 2023

現在の時刻は午前 6 時 42 分。時計のアラームが鳴っています。ナイト スタンドが内蔵している睡眠サイクル モニタのおかげで、あなたはぐっすり眠れたと感じています。このような機能を実現できたのは、内蔵のエッジ AI とレーダー テクノロジを活用し、あなたの心拍数と呼吸回数をモニタすることで、正確な起床時間を最適化したからです。

キッチンへ向かうとスマート冷蔵庫がカメラシステムを使用して、冷蔵庫の食品をスキャンし、あなたの食事制限データと嗜好に基づいて、おすすめのランチを提案してきます。

出勤する時刻になりました。何も触れることなく自動車にアクセスし立ち上げることができます。車外のカメラがあなたを認識し、自動的に車のロックを解除し、室温、シートの位置、音楽のボリュームがあなたの好みに合わせて事前にセットされます。

このような未来は、遠い夢物語ではありません。これらを実現するためのテクノロジは、すでに存在しています。低消費電力マイクロプロセッサと使いやすいソフトウェアの組み合わせであるエッジ AI は、注目を集めている生成 AI やクラウド ベース コンピューティングのように見出しを飾ることはめったにありません。しかしエッジ AI は、私たちが毎日テクノロジとどのように接するかを形成し、これまでに考えたこともない方法で私たちの生活を向上させる可能性を秘めています。

 

エッジ AI とは

エンジニアが「エッジ」という用語を使用する場合、「遠く離れた抽象的な場所」について語っているわけではありません。エッジは、私たちの家庭、オフィス、ファクトリに存在しています。エッジとは、ロボットやスマート ホーム デバイスなど、データの収集と計算を行う、ローカル環境またはローカル デバイスを意味します。エッジAI とは、ローカル ネットワークからクラウドへデータを送り出すことなく、そのデバイスでリアルタイムのインテリジェンスと応答性を実現する能力のことです。

エッジでこのレベルのインテリジェンスを実現すると、クラウド ベースの AI リソースで処理を行う場合と比べて、エレクトロニクスがその環境に対してより迅速かつより安全に応答できる潜在能力を最大限に引き出し、自動車から医療用アプリケーション、パーソナル エレクトロニクスまで、あらゆる業界に影響を及ぼします。たとえば、ファクトリ全体に多くのカメラを設置し、継続的に機器を検査し、機械の故障を検出および予測することで、必要に応じて組み立てプロセスを瞬時に停止することも可能です。

「AI は、信頼性と安全性に優れた非常に高速なパターン認識です」と、製品ライン マネージャである Artem Aginskiy は語ります。「エッジ AI を実現している場合、デバイスから外部へデータを送信する必要はありません。そのため、プライバシーの保護に大きく寄与します」

エッジ AI はローカル環境で予測と応答を行います。つまり、クラウドに何かを送信する必要はありません。たとえば、睡眠監視を行っている状況で、健康情報などのデータが侵害されるリスクを低減できます。

 

エッジAI向けの組込みプロセッサ

最近まで、AI を実現するには専門的なスキルと経験が必要でした。多くの組織にはこれらが欠けているため、AI は手が届かないものと思われていました。しかし、AI がもたらす大変革の影響が明らかになるにつれて、あらゆる業界の企業が、自社製品に AI を統合する方法を模索しています。組込みプロセッサとソフトウェアの革新により、エッジ AI はより身近になり、その幅広い普及に貢献しています。

エッジ AI の土台になっているのは、データを収集する場所で AI アルゴリズムを実行する能力のある組込みプロセッサです。ただし、エネルギー効率とコストの間にトレードオフが存在します。ロボット型掃除機やドアベルなどのバッテリ動作システムが必要とするのは、最適化された性能を実現すると同時にエネルギー使用量を最小化する、コスト最適化済みプロセッサです。

ファクトリ オートメーション、業務用監視システム、ロボットなどの高性能システムは、より高い処理性能を必要としますが、コストやエネルギー使用量も引き続き考慮する必要のある要素です。

ハードウェア アクセラレータを内蔵した低消費電力の Arm® Cortex® ベースのマイクロプロセッサのように、チップ設計の進歩により、エッジ AI が必要とする性能、速度、エネルギー効率が、より手ごろな価格で実現できるようになりました。エッジ AI システムでシステム コストと消費電力を削減することで、設計者はより多くのアプリケーションで高度な AI 機能の採用が可能となり、その結果、人々は TI のエレクトロニクスと、自らが生成したデータを最大限活用することができます。

 

「ローコード」のソフトウェア開発ツール

半導体の革新に加えて、ユーザー親和性の高い新しいエッジ AI ソフトウェア開発ツールにより、AI モデルの作成、トレーニング、導入の際に必要なプログラミングに関する専門知識の必要性が軽減されています。これらのツールを活用することで、コーディングに関する詳細な専門知識がなくても、設計者が自らのアプリケーションでインテリジェンスを実現できます。エッジ AI の実装においては、このような専門知識の必要性がこれまで大きな障壁になってきました。

TI の Edge AI Studio のようなツールは、「ローコード」(コーディング量の少ない)開発環境を実現します。その結果、設計者はコードを記述することなく、代わりに GUI ベースのツールを使用して AI モデルの開発とテストを進めることができ、専門家でなくても AI を活用できる可能性が広がります。設計者は、特別な知識やスキルがなくても、デバイスのインテリジェンスや「頭脳」の役割を果たすニューラル ネットワーク、つまり AI のアルゴリズムを開発できます。

「テキサス・インスツルメンツは、世界中の開発者がインテリジェント システムを開発することができるように AI の民主化を進めています」と、Artem は語ります。「このツールを使用すると、コードを 1 行も記述することなく、AI モデルのトレーニングと導入を進めることができます」

エッジ AI がいっそう身近な存在になることで、あらゆる場所にあるエレクトロニクス製品のスマート化、安全性、生産性、信頼性がいっそう向上し、これまでは考えられなかった新しい方法で私たちの生活に影響を及ぼすようになるでしょう。