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TIとMITが電力効率にきわめて優れたマイクロチップを共同開発

2008年03月05日

自動充電型の携帯電話や、体内移植型医療用センサーなどに大きく貢献

CORPPR-08-005 2008年3月5日
2008年2月4日付 米国発表プレスリリース 抄訳

テキサス・インスツルメンツ(本社:米国テキサス州ダラス、社長兼CEO:リッチ・テンプルトン、略称:TI )とMIT(マサチューセッツ工科大学)による研究チームは4日、ポータブル電子機器向けに、従来の技術と比べエネルギー効率が最大10倍に向上したチップデザインを発表しました。これにより携帯電話、体内移植用の医療機器およびセンサーなどバッテリー駆動型の各種デバイスの稼働時間が、飛躍的に長くなります。

MITの電子工学およびコンピュータサイエンス(EECS)学部の卒業生であるJoyce Kwong 氏は、米国サンフランシスコで開催中の半導体に関する国際学会であるISSCC(International Solid-State Circuits Conference)にて5日、この革新的な設計を発表しました。

Kwong氏は、MIT のAnantha Chandrakasan教授、EECSの大学院生のYogesh Ramadass氏およびNaveen Verma氏と共に、当プロジェクトを推進してきました。TIからはMarkus Koesler、Korbinian HuberおよびHans Moormannがプロジェクトに参画しています。共同研究チームは、普及品であるTIのMSP430マイクロコントローラを用いて、超低消費電力デザイン技術のデモンストレーションを行いました。研究プロジェクトは、Chandrakasan教授が管轄するMITのラボ(Microsystems Technology Laboratories)で進められました。

Chandrakasan教授の説明によると、エネルギー効率を向上させる鍵は、通常よりはるかに低い電圧レベルでチップ上の回路を動作させる方法を見つけることでした。既存の最新チップの多くは1V(ボルト)前後で動作しますが、新デザインによるチップはわずか0.3Vで動作します。

しかしながら、既存のマイクロチップも長年にわたり高い電圧標準レベルで動作するように最適化されてきたため、動作電圧を下げるのは容易ではありません。Chandrakasan教授は次のように述べています。「メモリーやロジック回路が極めて低い供給電圧で動作するよう、再設計の必要があります」

さらにChandrakasan教授によると、今回発表したデザインにおけるもう一つの重要な点は、電圧値を下げるDC/DCコンバータを、外付けではなく、同一チップ上に集積した点です。メモリーやロジックの再設計とDC/DCコンバータの集積を組み合わせることにより、包括的なSoCソリューションが実現しました。

チームにとって克服すべき大きな課題のひとつとして挙げられていたのは、チップ製造時に生じがちな「ばらつき」をなくすことでした。シリコンチップにばらつきや欠陥があると、低電圧下では問題がより大きくなります。Chandrakasan教授は次のように述べています。「我々の戦略の主な部分を占めているのが、ばらつきなどの脆弱性を最小限に抑えてチップを設計することです」

これまでのところ、新しいチップはチームが掲げたコンセプトの正しさを実証しています。Chandrakasan教授は、このデザインを採用した民生向けのアプリケーションが様々な分野で5年以内に」入手可能になるものと見込んでいます。たとえば、このチップを使うことで、体内移植が可能な小型の医療機器、ポータブル通信機器、およびネットワーク機器などの作動時間が飛躍的に延びることになります。また、小型で自己充足型のセンサーネットワークを戦場に分散配置することにより、様々な軍事用アプリケーションを製品化することも可能であると見られます。

Chandrakasan氏によると、体内の移植用医療機器などの特殊なアプリケーションでは、人体の体温や動きのような「周囲(アンビエント)エネルギー」のみで動作可能になるレベルまで、消費電力を低く抑えることが求められています。さらにこの技術は、BAN(ボディ・エリアネットワーク、人体の近傍を通信範囲とした無線通信によるネットワーク)やBSN(ボディ・センサー・ネットワーク、人体に装着または体内に移植した機器群による無線通信のネットワーク)に向いています。

TIのチーフサイエンティストであるDr. Dennis Bussは次のように述べています。「TIとMITは電子機器の省電力化において、数々の革新を実現してきました。このほど、革命的ともいえる世界的なの大学研究にMITと共に携わったことを誇りに思います。このデザイン技術は、TIの今後のIC製品の超低消費電力化につながる可能性を秘めるとともに、無線ターミナル、RFID、バッテリー駆動型の計測機器、センサーネットワーク各種、医療電子機器など多くのアプリケーションの可能性も切り開くものです」

なおこの研究はDARPA (米国国防総省国防高等研究事業局)の寄金を得ています。

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