
世界の人々の健康のために、最先端の科学を追求し、より良い社会の実現を目指す社員の想いを紹介します
再生医療、中でも細胞医療は、次世代医療として大きな期待を集めています。一方で、優れた研究成果が患者さんのもとに届くまでには多くの課題が存在します。アステラスは、安川電機との合弁会社としてセラファ・バイオサイエンス株式会社(セラファ)を設立し、その壁を超えることを目指しています。鍵となるのは、汎用ヒト型ロボット「まほろ」とAIの活用です。細胞医療の作り方をどう変え、社会にどのような価値をもたらそうとしているのか。プロジェクトをけん引するセラファの代表取締役社長CEOの山口 秀人と、アステラスのPrimary Focus Lead(再生と視力の維持・回復)であり、セラファの取締役も務める鈴木 丈太郎に話を聞きました。
――まず、細胞医療の現状と課題について教えてください。

山口 秀人
セラファ代表取締役社長 CEO
山口 : 従来の医薬品は、化学構造を持った物質そのものが製品になります。一方、細胞医療では本来体内にあり非常に繊細な細胞を取り扱い、製造工程が人の手作業に依存しがちです。そのため、細胞医療製品は、プロセスが製品といわれるほど、作り方が重要です。培養環境の温度や時間、混ぜ方、ピペット操作の癖のようなわずかな違いが結果に影響します。作り方が異なれば、別の製品と扱われる可能性もあります。特定の人にしか再現できないプロセスでは、品質の安定や供給体制の構築が困難になります。こうした課題は量産やスケールアップの壁にも直結します。

鈴木 丈太郎
アステラス Primary Focus Lead
(再生と視力の維持・回復)
セラファ取締役
鈴木 : 研究段階では有望なデータが得られていても、患者さんに届ける前に開発が止まってしまうケースは少なくありません。基礎研究と実用化のギャップを「死の谷」と言います。そこを越えなければ、どれほど優れた科学的成果であっても、社会価値にはなりません。私たちは、その課題に正面から取り組みます。
――今回の合弁会社設立までには、どのような経緯があったのでしょうか。
山口:きっかけは2017年に、アステラスが研究用途として、安川電機グループのロボティック・バイオロジー・インスティチュートが開発した汎用ヒト型ロボット「まほろ」を導入したことでした。当初は研究支援が目的でしたが、2020年から、細胞医療向け製造の自動化研究を本格化させ、1年ほどで「まほろ」などのロボット技術を製造に活用できる可能性がみえてきました。
鈴木:この技術を活用して研究開発から製造、そして患者さんに製品を届けるまでの流れを成立させるには、両社のこれまでの協働の枠組みだけでは限界がありました。異なる強みを持つ企業が対等な立場で連携し、新しい価値を生み出す合弁会社という形は、この技術をアステラスの中だけに留めず、細胞医療全体の発展につなげるためにも重要な選択だったと考えています。
山口:安川電機との協業も、最初からすべてが順調だったわけではありません。お互いにビジネスの考え方や前提が異なる部分もありました。しかし、議論を重ねる中で、安川電機が長年挑戦してきたヘルスケア分野への想いと、私たちが目指していた再生医療の社会実装という目標が、次第に重なっていきました。価値ある提案であればボトムアップの発想も歓迎し、イノベーションを強く後押しするアステラスの企業文化には大きく背中を押されました。イノベーションへの探求心は両社に共通し、プロジェクトを力強く前進させる原動力となりました。
――セラファでは、具体的にどんなことを実現しようとしていますか?
山口:大きな目的は、プロセス開発を含む製造ワークフローのデジタル化と自動化です。人が行ってきた作業をロボットが同じ条件で再現し、工程データを蓄積することで、品質に影響する要素を可視化します。また、「まほろ」の特徴として人が使っている装置をそのまま使えるので、専用装置を新たに作る必要がなく、現場の手順を大きく変えずに自動化できます。
鈴木:さらに、デジタル化したデータにAIを組み合わせることで、データに基づいた改善サイクルを継続的に回せるようになります。AIが次に試すべき条件を提案し、ロボットが再現性の高い実験を行い、その結果を解析して次の改善につなげる。これにより、プロセス最適化のスピードが飛躍的に高まります。このような循環を高速で繰り返して構築された細胞製造プロセスは、高い信頼性と再現性を持っています。
山口:従来は熟練者の経験に依存していた製造工程をデータとして標準化し、ロボットで再現できれば、技術移転も容易になります。拠点拡張や供給体制の強化が現実的になることで、細胞医療が特別な医療からより現実的な選択肢へと近づいていくはずです。
――セラファは、よくある製造受託企業とはならなそうですね。
山口:私たちは従来型の製造を受託して納品する「CDMO」(Contract Development and Manufacturing Organization/医薬品開発製造受託機関)とは異なり、研究段階からパートナーと伴走し、開発から製造までをつなぐ「PRDMO」という新しいビジネスモデル(Pはパートナーシップ、Rはリサーチ)を採用しています。パートナーのシーズの価値が市場で成立する形を一緒に考える、これまでになかった新しい仕組みの構築に挑戦しています。
鈴木:細胞医療では、品質管理や規制対応など、研究者やベンチャー企業だけでは対応が難しい課題があります。このプラットフォームをオープンなエコシステムとして展開し、多様な企業や研究機関が活用できる環境を整えることで、業界全体の発展に貢献したいと考えています。
――それは、患者さんにどのような「価値」を届けますか?
鈴木:最も大切なのは、高品質で安全な治療を安定して提供することです。ロボットを活用することで、品質のばらつきを抑えることが期待できます。さらに研究開発効率や製造成功率が向上すれば、治療コストの適正化にもつながる可能性があります。加えて、製造工程が標準化されれば、日本はもちろん世界各地で同じ品質の治療を、より多くの患者さんに届けることができるようになるでしょう。
――今後の展望について教えてください。
山口:2026年4月には研究支援サービスを開始し、2028年初めにはセラファのプラットフォームを活用した治験薬製造を目指しています。将来的な海外展開も視野に入れ、私たちのプラットフォームの強みである、これまでより短時間で物理的な距離を超えて技術移転できる仕組みをグローバルに構築し、価値をさらに高めていきたいと考えています。
鈴木:セラファは、多様なプレイヤーが集う「ハブ」のような存在を目指しています。革新的な技術を患者さんにとって意味のある「価値」へと変え、細胞医療の発展に貢献する。そして、新しい技術と多彩なパートナーが結び付くことで、これまで実現できなかった治療の可能性を広げるための「エンジン」になりたいと思っています。
山口:ロボットやAIなどの新しい技術が社会を大きく変えようとしている今、私たちはその変革の当事者だと考えています。収集したデータを意思決定の核とするデータ駆動型のアプローチで、細胞医療の研究・開発・製造のプロセスにAI・ロボットが自ら考えて動く自律化、そして人と機械の協調を組み込んでいきます。セラファが実現しようとしている進化は、まさに細胞医療における産業革命であり、その変革をけん引する存在になることを目指しています。

アステラスと安川電機によって誕生したセラファは、細胞医療を大きく変革する可能性を秘めています。製薬とロボティクスという異なる領域を融合し、研究成果を社会「価値」へとつなげるこの挑戦は、細胞医療をさらに前進させる重要な一歩となるでしょう。